深夜の喫茶店で



その日は朝から小雨が降っていた。
傘をさして歩きながら、告発者が勤めていた部署の人間関係を整理し、
手帳に書き留めていく。
誰がキーパーソンで、誰が動きを左右する「影の人」なのか。
それを読み解くのもまた、探偵の仕事だ。

数名の元社員に接触を試み、事情を聞くうちに、会社の経理責任者と社長が
親戚関係にあるという情報を得た。帳簿操作の可能性が出てくる。

夜9時を回った頃、携帯にメッセージが届いた。梶先生からだった。
「この後、少し話せますか? 喫茶アンダンテにいます」
そこは、繁華街の外れにある古いジャズの流れる店で、梶先生が好んで使う場所だ。

私は少し遅れて入店した。
店内は薄暗く、木のテーブルにはオレンジ色のランプが揺らいでいる。
彼はすでにコーヒーを飲みながら、ノートPCを開いていた。
私はホットミルクを頼み、静かに座る。
まずは調査の進展について軽く話し合い、その後、ふと彼がこんなことを口にした。

「…美間さん、たまに疲れませんか? 人の“裏”ばかり見る仕事って」

私は笑って答えた。

「疲れることもあります。でも、表だけじゃ守れないものもありますからね」

彼はしばらく沈黙した後、小さく頷いた。
「誰かを訴えるのって、エネルギーがいりますよね。
彼女(告発者)を見ていると、それをひしひしと感じるんです」

その言葉に、私も黙って頷いた。
私たちがしているのは「正しさ」だけの仕事ではない。
人の葛藤や痛みを背負いながら、誰かの背中を支えるような、
そんな時間の積み重ねなのだ。




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